サステナビリティ-TCFD提言に基づく開示-
TCFD提言に基づく気候関連の情報開示
当社は、『脱炭素推進による気候変動への対応』を重要な経営課題と認識しており、中期経営計画「move.2027」において、環境に配慮した製品の提供、空調設備の脱炭素・省エネ強化に寄与する製品開発等に取り組み、ESG経営を推進しています。
2022年には気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)※の提言内容に賛同し、リスクと機会を特定しシナリオ分析による戦略のレジリエンスを検証しています。
※ TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)
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- ガバナンス
- 気候関連のリスクおよび機会に係る組織のガバナンス
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- 戦略
- 気候関連のリスクおよび機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響
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- リスク管理
- 気候関連のリスクについて組織がどのように選別・管理・評価しているか
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- 指標と目標
- 気候関連のリスクおよび機会を評価・管理する際に使用する指標と目標
ガバナンス
当社は、ESG 基本方針に基づく取組みを推進するために、代表取締役社長を委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。当委員会では、気候変動を主要テーマの一つとし、脱炭素や省エネルギー等のサステナビリティに関する課題と目標、各種施策の立案を行うとともに、ESGマテリアリティの推進、目標や施策の進捗状況を議論し、取締役会に報告します。
また、取締役会においてはその監督体制として、サステナビリティ委員会で審議した気候関連のリスクおよび機会に関する指標と目標、対応について適宜報告を受け、必要に応じて審議の上、決議をします。
気候変動に関するガバナンス体制
組織概要 | 活動内容 | |
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取締役会 |
・各取締役で構成 |
・2023年3月期は17回開催 ・気候関連リスクおよび機会に関する指標と目標、対応に関する監督 |
サステナビリティ委員会 |
・委員長:代表取締役社長 ・副委員長(ESG 担当役員):代表取締役副社長 ・委員 :各本部、経営企画室、内部監査室より選任 ・協力委員:当社グループ会社より選任 ※ESG 担当役員は、気候変動関連リスク・機会を管理し、気候変動関連の取組みの進捗・運用状況を統括しています。 |
・2023年3月期は12回開催(分科会含む) ・脱炭素や省エネルギー等のサステナビリティに関する課題と目標、各種施策の立案 ・ESGマテリアリティの推進 ・目標や施策の進捗状況に関する取締役会への報告 |
戦略
当社は、台風・豪雨の激甚化等の気候災害の拡大、および脱炭素化等の気候変動緩和に向けた全世界的な取組みが当社の経営とビジネス全体に重大な影響を与える重要な課題であると認識しています。シナリオ分析を通じて気候関連リスクの影響を認識し対応策を検討することにより、当社の事業上のリスクの低減と価値創出の機会を実現し、持続可能かつ安定的な収益を長期的に確保することを目指します。
シナリオ分析に当たっては、脱炭素社会への移行を想定する1.5℃/2℃シナリオおよび経済活動を優先する4℃シナリオを採用しました。1.5℃/2℃シナリオでは、パリ協定目標の達成に向け、脱炭素のための社会政策・排出規制や技術投資等が現在以上に進んでいく未来を想定し、国際エネルギー機関(IEA)の持続可能な開発シナリオ(Sustainable Development Scenario)および2050 年で排出量がネットゼロとなるシナリオ(Net Zero Emission by 2050 Scenario)を参照し検討しています。
1.5℃/2℃シナリオにおいては、再エネが普及し、自動車業界でEV 化の進行が想定されますが、それに伴い需要が拡大する銅は、同時に当社製品の主要な原料でもあり、それらの調達価格の高騰により、費用は8億円程度の増加が見込まれます。また、GHG※1排出・省エネ規制/フロン利用に関する規制が強化され、低GWP※2製品等への移行に対応できない場合、フロンを冷媒に使用する既存製品を販売停止せざるを得なくなり、営業利益は7億円程度の減少が見込まれます。
一方で、脱炭素に向けてZEB※3化が進行し、GHG 排出量の規制や省エネ規制、フロンの利用に関する規制が強化され、それらに伴う社会意識の変化への対応を進めていく中、エネルギー効率が高く、GHG 排出量が低い製品への需要が拡大することは、当社にとっては機会でもあると考えています。GHG排出量削減に寄与する製品の需要増により、営業利益は21億円程度の増加が見込まれます。
また4℃シナリオでは、十分な気候変動緩和対策が実現せず、GHG 排出が増大し続け、気候災害による物理的リスクが大きく増大する未来を想定し、IEA の現状の政策シナリオ(Stated Policies Scenario)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル) によるGHG排出量緩和策がほとんど行われない前提であるRCP8.5 シナリオを参照し検討しています。4℃シナリオにおいては、自然災害が激甚化した結果、被災による被害が発生するとともに、建設工事の遅延やサプライチェーンの分断によって、納品が遅延することに伴う販売機会の損失により、営業利益は2億円程度の減少が見込まれます。
一方で、平均気温が上昇する事により自然災害が激甚化する中で災害レジリエンスに向けた顧客の空調への期待が高まると見込まれます。災害レジリエンス向上に寄与する自社製品の需要増により5億円程度の営業利益の増加が見込まれます。
これらの事業インパクトを定量的に分析したところ、1.5℃/2℃シナリオにおいては、リスクによる営業利益の減少は約18億円、機会による営業利益の増加は約29億円となり、リスク・機会すべてが実現した場合、営業利益を約11億円押し上げる試算結果となりました。
また、4℃シナリオにおいては、リスクによる営業利益の減少は約3億円、機会による営業利益の増加は約13億円となり、リスク・機会がすべて実現した場合、営業利益を約10億円押し上げる試算結果となりました。
以上の分析により、当社では、1.5℃/2℃シナリオもしくは4℃シナリオのいずれの社会が実現した場合においても、機会がリスクを上回る結果となりました。
今後、シナリオ分析で明らかになったリスク・機会への対応として、冷媒規制に対する技術開発、製造の省エネ化・効率化、空調設備の省エネ性能強化/技術開発等を実行し、不確実な将来に向けたレジリエンスを高めていきます。
また、これらの事業活動を通じ、社会全体のサステナビリティ実現に貢献することにより1.5℃シナリオで想定される低炭素社会を目指します。
※1 GHG・・・Greenhouse Gas(温室効果ガス)
※2 GWP・・・Global Warming Potential(地球温暖化係数)
※3 ZEB・・・Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル):快適な室内環境を実現しながら、建物で消費するエネルギーをゼロにすることを目指した建物
1.5℃/2℃シナリオ分析における事業インパクト(営業利益ベース)
4℃シナリオ分析における事業インパクト(営業利益ベース)
当社が特定した重要なリスクと機会およびシナリオ分析の結果は下記のとおりです。
1.5℃/2℃シナリオ
リスク/機会の タイプ |
重要なリスク/ 機会 |
シナリオ分析の結果に基づく事業への影響 (重要なリスク/機会の説明) |
時期 | 営業利益への インパクト |
対応策 |
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移行リスク (政策/法規制) |
GHG排出・省エネ規制強化による影響 | GHG排出・省エネ規制/フロン利用に関する規制が強化され、低GWP製品等への移行に対応できない場合、フロンを冷媒に使用する既存製品を販売停止せざるを得なくなる | 中長期 | 小 |
① 冷媒規制に対する技術開発 |
移行リスク (政策/法規制) |
カーボンプライシング導入による影響 | 気候変動政策が強化され、炭素税導入やGHG排出量の価格設定の引き上げなどで運用コストが増加する | 中長期 | 小 |
② 製造の省エネ化・効率化 |
移行リスク (市場) |
原材料コストの上昇 | 炭素税導入等により原材料の調達コストが増加した際、コスト増につながる | 中長期 | 中 7.5億円減少 |
② 製造の省エネ化・効率化 ③ 調達価格を安定化させるための代替的手段の検討 |
移行リスク (評判) |
気候変動対応が不十分なことによるすべてのステークホルダーからの評判の低下 | 気候変動に対する社会的な関心が高まり、脱炭素社会に向けた取り組みや働きかけを企業評価に含める動きが広がる中、自社の気候変動問題への取り組みが不十分と判断された場合、すべてのステークホルダーからの評判を失う | 中長期 | 小 |
④ 気候変動や省エネに即した空調の普及活動 |
物理リスク (急性) |
風水害の激甚化による事業停止リスク | 気候変動により台風や洪水等の風水害リスクが上昇し、販売拠点が被災すると、営業活動が困難になりビジネス機会を逃す | 中長期 | 小 |
⑤ 調達・製造のBCP強化 |
機会 (製品/サービス) |
顧客のGHG削減・省エネに寄与する製品の需要増(省エネ化) | 省エネルギー化に向けた政策・法規制強化及び平均気温上昇に伴う顧客の空調コスト増加に伴い、エネルギー効率の高い空調機器設備を通じて、ランニングコスト削減を求める顧客が増えることが想定される | 短期 | 小 |
⑥ 空調設備の省エネ性能強化/技術開発 ⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 |
機会 (製品/サービス) |
顧客のGHG削減・省エネに寄与する製品の需要増(水冷媒) | GHG排出規制/フロン利用に関する規制が強化され、 「水」冷媒製品の需要増が見込まれる | 中長期 | 大 21億円増加 |
⑥ 空調設備の省エネ性能強化/技術開発 |
機会 (製品/サービス) |
災害激甚化・災害レジリエンス向上に寄与する自社製品の需要増(既存製品) | 気候変動により台風や洪水等の風水害リスクが上昇し、顧客工場やビル被災時の緊急対応体制が整った会社の製品への需要増が見込まれる | 中長期 | 小 |
④ 気候変動や省エネに即した空調の普及活動 ⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 |
機会 (製品/サービス) |
災害激甚化・災害レジリエンス向上に寄与する自社製品の需要増(災害対応ソリューション) | 気候変動により災害対応ソリューション等を活用した気候変動に適応する製品需要が見込まれる | 中長期 | 小 |
⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 ⑧ 気候変動に対応する技術/機能の開発 |
4℃シナリオ
リスク/機会の タイプ |
重要なリスク/ 機会 |
シナリオ分析の結果に基づく事業への影響 (重要なリスク/機会の説明) |
時期 | 営業利益への インパクト |
対応策 |
---|---|---|---|---|---|
移行リスク (市場) |
原材料コストの上昇 | 炭素税導入等により原材料の調達コストが増加した際にコスト増につながる | 中長期 | 小 |
② 製造の省エネ化・効率化 ③ 調達価格を安定化させるための代替的手段の検討 |
物理リスク (急性) |
風水害の激甚化による事業停止リスク | 気候変動により台風や洪水等の風水害リスクが上昇し、販売拠点が被災すると、営業活動が困難になりビジネス機会を逃す | 中長期 | 小 |
⑤ 調達・製造のBCP強化 |
機会 (製品/サービス) |
顧客のGHG削減・省エネに寄与する製品の需要増(省エネ化) | 省エネルギー化に向けた政策・法規制強化及び平均気温上昇に伴う顧客の空調コスト増加に伴い、エネルギー効率の高い空調機器設備を通じて、ランニングコスト削減を求める顧客が増えることが想定される | 短期 | 小 |
⑥ 空調設備の省エネ性能強化/技術開発 ⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 |
機会 (製品/サービス) |
災害激甚化・災害レジリエンス向上に寄与する自社製品の需要増(既存製品) | 気候変動により台風や洪水等の風水害リスクが上昇し、顧客工場やビル被災時の緊急対応体制が整った会社の製品への需要増が見込まれる | 中長期 | 小 |
④ 気候変動や省エネに即した空調の普及活動 ⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 |
機会 (製品/サービス) |
災害激甚化・災害レジリエンス向上に寄与する自社製品の需要増(災害対応ソリューション) | 気候変動により災害対応ソリューション等を活用した気候変動に適応する製品需要が見込まれる | 中長期 | 小 |
⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 ⑧ 気候変動に対応する技術/機能の開発 |
機会 (製品/サービス) |
平均気温上昇に伴う環境改善需要増 | 気温上昇に伴い、今まで空調設備を設置していなかった商業施設や競技場、体育館などの半屋外についても暑さ対策の需要が見込まれる | 短期 | 小 |
⑦ 気候変動や省エネ対応に即した営業強化 |
リスク管理
当社は、気候変動に伴うさまざまな外部環境の変化について、サステナビリティ委員会においてその要因を「移行リスク」と「物理的リスク」に分類のうえ、財務的影響を大・中・小の3段階で評価し、重要なリスクと機会を特定しています。
識別・評価された各リスクは,該当部門が管理し,製造の省エネ化・効率化、省エネや気候変動に即した空調の普及活動等を通じ、CO2 排出量の削減の対応策を検討しています。またそれらのリスクへの対応案は,サステナビリティ委員会において集約・管理され、定期的に取締役会に報告することとしています。
今後は、更なるリスク管理の高度化を目指し、リスク管理体制の強化を進めます。
指標と目標
当社は、気候関連のリスクおよび機会を評価・管理するに当たり、Scope1およびScope 2の CO2排出量を指標としています。2050年に向けた長期目標を含むCO2削減目標を設定し、CO2 フリー電力への切り替えや製造過程における燃料使用量削減等により、事業活動におけるCO2排出量削減の取組みを推進しています。
目標
2030 年末までに2019 年度の実績比で50%のCO2排出量の削減を目標とし、2050年末までにCO2排出量を実質ゼロとします。
達成状況
2023年度は、2022年度に引き続きCO₂フリー電力への切り替えを順次進める等、当社事業活動におけるCO₂排出量の削減に取り組んだ結果、前年度比約34%減(2019年度比約69%減)の1,108tCO₂となりました。今後も、ESGマテリアリティのひとつである『2050年までにCO₂排出量実質ゼロ』の実現に向け、CO₂排出量削減に取り組んでまいります。